ストックオプション
IPO準備段階において、ストックオプションは企業にとって、大きなメリットをもたらす重要なツールです。ストックオプションは役員・従業員や外部協力者に強力なインセンティブを提供する手段であり、IPO達成時には、上昇した株価との差額で多額の利益を得ることができます。
IPO準備企業は、特に税制適格ストックオプションの発行を活用し、税制面での利便性を高めている例が多く見られます。本稿では、ストックオプションの基本概念とその税務面について解説します。
ストックオプションとは
ストックオプションとは、特定の価格で自社株式を購入する権利を役員や従業員に付与する制度です。例えば、1株あたり50円の権利を付与された場合、株価が60円に上昇した際に行使すれば、1株あたり10円の利益を得ることができます。これが役員や従業員のインセンティブとなることにより、業績向上のモチベーションを高めることができます。
ストックオプションにはいくつかの種類がありますが、IPO準備企業において活用されている主なものについてご紹介します。
有償と無償のストックオプション
有償型ストックオプション
有償型ストックオプションは、付与対象者が対価を支払って取得するタイプのストックオプションです。発行時に購入代金の払い込みが必要であるため、インセンティブとしては利用しにくい傾向があります。また、株式売却時には譲渡所得として課税されます。
無償型ストックオプション
無償型ストックオプションは、対価を支払うことなく取得できるタイプのストックオプションです。このため、役員から従業員まで広く付与しやすい利点があります。要件を満たせば、「税制適格ストックオプション」として発行可能です。(「税制適格ストックオプション」については次の項目で解説します。)
有償型ストックオプション | 無償型ストックオプション | |
特徴 | 与されたストックオプションを有償で購入する | 付与されたストックオプションを無償で取得できる |
メリット |
税金が無償型に比べ安い |
発行時に購入代金が不要のため、役員から従業員まで誰にでも付与しやすい |
デメリット |
ストックオプションの発行時において払い込みが必要になるため、役員や従業員のインセンティブとして利用しにくい |
有償型に比べ、税金が高くなりやすい |
税制適格と非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプション
税制非適格ストックオプションは、権利行使時に給与所得として課税されます。株式取得価格と実際の株価の差額が給与所得となり、さらに株式売却時の差額が譲渡所得として課税されます。税制非適格のストックオプションは、行使時点での税負担が大きく、使い勝手が悪いことが特徴です。
税制適格ストックオプション
税制適格ストックオプションは、租税特別措置法29条の2に定める一定の要件(※)を満たした場合に発行可能なストックオプションです。権利行使時には課税されず、株式売却時にのみ譲渡所得として課税されます。このため、税負担の面で有利です。
税制非適格ストックオプション | 税制適格ストックオプション | |
課税の特徴 |
①権利行使時に給与所得として課税 ②ストックオプションで定められた株式取得価格と、実際の株価の差額が給与所得 ③株式取得時点での株価と売却時点での株価の差により、利益分が譲渡所得として課税 |
①権利行使時には課税されない ②株式の売却時点で、権利行使時の取得価格と、売却価格の差額で得た利益に課税 ③利益は全て譲渡所得 |
メリット | 発行要件の制約がない | 一律20.315%の課税であるため税金が比較的安い |
デメリット |
①株式売却前の取得段階で税金がかかってしまうため、納税資金が別途必要 ②税金が多くかかる譲渡所得(給与所得は最大55%、譲渡所得は一律20.315%) |
①発行のために要件を満たす必要がある ②手続きが煩雑 |
(※)税制適格ストックオプションとするための要件は下記のとおりです。
(出典:経済産業省HP「ストックオプション税制」より抜粋)
IPO準備企業でのストックオプション活用法
IPO準備企業は、大企業ほどの報酬や待遇を提供できないことが多く、人材確保が課題となりやすいものです。これに対してストックオプションを活用することで、優秀な人材の確保し、会社の成長とともに役員や従業員個々人の経済的な利益を増やす手段とすることができます。
IPO準備企業がストックオプションを活用するメリット
一般的に、IPO達成時には株価が大きく上昇します。IPO準備段階で発行されたストックオプションの権利行使価格を発行時点の株価とすることで、ストックオプションを付与された役員や従業員は、IPO後に多額の利益を得ることができます。これにより、優秀な人材の確保や社外の協力を得やすくなり、IPO達成へのモチベーション向上にも繋がります。
税制適格ストックオプションのメリット
税制適格ストックオプションは、権利行使時に課税されず、株式売却時のみ譲渡所得として課税されます。これにより、行使時点での税負担がないため、ストックオプションの活用が容易になります。一方、税制非適格ストックオプションでは、行使時に最大55%の税金がかかるため、株式の即時売却を強いられる場合があります。
信託型ストックオプションに注意
信託型ストックオプションは、発行したストックオプションを信託に預け、業績に応じて役員や従業員に付与する仕組みです。一般的な無償・有償ストックオプションと違って、「後から渡す人を決められる」という利便性がある一方で、課税の取り扱いにおいて複雑な点が多く、特に従業員が受け取る利益がどの時点で課税されるのかについて、従前より税務上の不確実性が問題となっていました。
2023年5月の国税庁見解により、信託型ストックオプションは権利行使時に給与所得として課税されることが明確化されたため、信託型ストックオプションの課税に関する不確実性が解消され、税務リスクは軽減されましたが、複雑な仕組みを設計・運用するには、税務や法務の専門家のアドバイスを受けることが重要です。
響きパートナーズ株式会社
響きパートナーズは、IPO支援を行なうコンサルティング会社です。ベンチャー企業の経営支援・IPO支援のプロフェッショナルとして、毎年、国内で上場する企業のおよそ10社に1社をご支援しています。当社では、IPOに関する課題をお持ちのお客様に、アドバイスだけでなくコンサルタントが実際に手を動かして、課題解決に向けて伴走支援いたします。
小倉 和隆
税理士事務所から㈱プラザクリエイト経理部、その後そーせいグループへと転じ、経理部長としてIPOを達成。2006年会長の山川と響きパートナーズを創業。2022年12月より代表取締役社長。