市場変更(市場区分変更)
市場変更のルール
証券取引所に上場する銘柄が所属する市場区分を移動することを「市場変更」、「市場区分変更」といいます。
市場区分によって求められる上場基準が異なっており、時価総額、流通株式比率、株主数といった定量的な基準のほか、コーポレートガバナンス・コードの適用範囲にも違いがあります。本稿では、代表例として東証の市場区分変更について解説します。
市場変更は新規上場と同様の手続・審査
日本取引所グループ(JPX)は、2022年4月に行った市場再編により、市場変更時の緩和基準(いわゆるステップアップ基準)を撤廃したほか、再編前に存在していた「指定替え※1」や、マザーズに新規上場した企業向けの「マザーズ10年ルール※2」もなくなりました。
そのため、市場変更を希望する上場企業は、移行先市場へ上場申請し、新規上場基準と同じ基準で審査を受ける必要があります。
※1 指定替えとは、債務超過や申請書類に重大な虚偽があった場合に、自動的に上場市場が変更される制度。新制度の下では上場維持基準に抵触し、改善期間内に改善されない場合は上場廃止となります。
※2 マザーズ10年ルールとは、東京証券取引所が2011年に定めたルールで、マザーズに新規上場後10年が経過した企業に対し、東証2部へ市場変更するかマザーズに留まるかを選択させる制度の呼称。10年ルールの対象となる企業が東証2部への市場変更を選択した場合、市場変更の審査や市場変更料は免除されていました。一方で、マザーズに留まることを希望する企業で時価総額が40億円に満たない場合は、証券会社などの第三者が作成した成長可能性に関する資料を提出する必要がありました。
プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の上場審査基準(概要、2022年4月1日以降)




市場変更の流れ
ここでは、市場変更のスケジュールと主な提出書類についてご紹介します。
市場変更のスケジュール
市場変更を希望する会社は、申請をする事業年度より前から準備する必要があります。市場変更の申請には主幹事証券会社の推薦が必要となり、IPOと同様、取引所の審査の前に主幹事証券会社の審査を受けます。審査のスケジュールは証券会社によって異なりますが、半年ほどかけて行うことが多いようです。証券審査を終え、申請直前事業年度にかかる定時株主総会が終了したのち、申請書類を取引所に提出します。なお、予備申請※を行うこともできます。
※予備申請制度とは、申請直前事業年度末の3カ月前から行うことができる制度。審査は予備申請に伴う資料のドラフトをもとに進められ、申請会社は定時株主総会終了後に正式申請を行います。
申請以降のスケジュールは下図のとおりです。申請時は必要な書類を一式提出するとともに、取引所で概要を説明します。その後、1~2週間後に取引所から申請会社へ第1回目の質問状が届き、申請会社はその質問におよそ1週間で(書面で)回答します。回答から数日後、回答書をもとに取引所から申請会社に対して第1回目のヒアリングが面談で行われます。第2回、第3回、経営者等へのヒアリングも同様に、書面での質問のやりとり→面談という流れが続きます。第1~3回の質問は合計200~300問ほどです。
市場変更申請後のスケジュール(通常版)


※申請会社の事業内容や規模などにより審査期間は異なります
※審査の中で特段の問題がないケースを想定したスケジュールです
ただし、スタンダード市場またはプライム市場へ市場区分を申請する上場企業のうち、「新規上場からの経過年数が3年以内」かつ「上場以降の組織体制や事業内容等に大きな変化がない」企業については通常3カ月要する審査期間が2カ月に短縮できる例外が認められています。その場合のスケジュールは下記のとおりです。
市場変更申請後のスケジュール(短縮版)


市場変更申請に必要な書類
変更申請時に提出が求められる主な書類は、東証のホームページで公開されていますので、上場を検討している市場ごとの『新規上場ガイドブック』を参照して下さい。
提出書類は、申請会社の状況によって異なり、市場変更と同時に公募・売出を行う場合などは「公募又は売出予定書」なども提出する必要があります。
市場再編にともなう経過措置と市場区分の変更
東証では2022年4月の市場再編時から、上場維持基準を満たしていない会社の上場を暫定的に認める経過措置を取ってきましたが、この経過措置が2025年3月以降に順次終了します。東証が実施した2024年3月末時点における経過措置適用会社(上場廃止予定会社等は除く)に対する調査によると、上場維持基準を満たせない場合の具体的な方策として、プライム市場上場企業やグロース市場上場企業では「市場区分の変更」、スタンダード市場上場企業では「他の取引所との重複上場」を検討する傾向にあることがわかりました。こうした状況を踏まえ、東証は2025年1月に上場会社に向けて『スタンダード市場への市場区分の変更について(上場会社向け説明資料)』を公開するなど、市場区分変更についての上場会社への理解を促す取り組みを行っています。
スタンダード市場への市場区分変更で注意したいポイント
経過措置の終了を機に、スタンダード市場へ市場区分を変更するプライム市場・グロース市場の上場会社の場合は、市場変更手続きの流れや審査基準が通常の手続きとは変則的なものになります。
以下のポイントを押さえ、計画的にスタンダード市場への市場区分変更を進めましょう!
スタンダード市場への市場区分変更のポイント | |
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1 | 申請期限の確認 スタンダード市場への市場区分変更を希望する場合、改善期間の末日までに申請が必要です。 |
2 | 申請手続きと必要書類 IPO(新規上場)と同様に、所定の提出書類を準備し、東証の審査を受ける必要があります。 ただし、IPO時とは異なり、主幹事証券会社の推薦書(上場適格性調査報告書)は不要で、会社自身で申請可能です。 |
3 | 審査期間の目安 通常、審査には3カ月以上かかります。 ただし、過去5年間に実効性確保措置や上場管理上の措置を受けていない会社は、東証の判断により審査期間が2カ月以上に短縮される可能性があります。 |
4 | 提出書類の簡略化 申請時に提出する書類は、IPO時よりも範囲が狭められています。 例えば、上場IIの部では「株式等の状況について」の記載が省略可能です。 |
5 | 事前相談の重要性 市場区分変更を希望する会社は、東証への事前相談が必須です。 自社のスケジュールを考慮し、申請の6カ月前までに東証の相談窓口へコンタクトすることが求められます。その後、本格的な申請書類の準備を進めます。 |
響きパートナーズでは、上場申請書類作成やコーポレートガバナンス・コードの対応
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響きパートナーズ株式会社

響きパートナーズは、IPO支援を行なうコンサルティング会社です。ベンチャー企業の経営支援・IPO支援のプロフェッショナルとして、毎年、国内で上場する企業のおよそ10社に1社をご支援しています。当社では、IPOに関する課題をお持ちのお客様に、アドバイスだけでなくコンサルタントが実際に手を動かして、課題解決に向けて伴走支援いたします。
井熊 実
野村證券公開引受部、㈱エイチ・アイ・エス上場準備PJ統括、エイチ・エス証券取締役、事業会社取締役、SBI証券執行役員などを歴任し、2021年に響きパートナーズに参画。取締役パートナー。